インドネシア・スマトラ島の災害が示す警鐘― 日本の防災経験から学ぶ、インドネシアの都市・国土づくり ―

近年、インドネシア・スマトラ島で相次いで発生している洪水や土砂災害は、単なる「自然の脅威」として片付けられるものではありません。雨量の増加や集中豪雨の頻発といった気候変動の影響がある一方で、森林破壊、無秩序な土地利用、脆弱な都市インフラなど、人為的要因が長年積み重なり、被害を拡大させてきました。被害が毎年のように繰り返される現状は、「想定外」ではなく、もはや「想定すべきリスク」として社会設計に織り込む段階に入っていることを示しています。

KOMPAS.com”Banjir dan Longsor di Sumatera, 708 Jiwa Meninggal, 499 Orang Masih Hilang, BNPB Kerahkan Operasi Besar-Besaran”

本稿では、スマトラ島の災害を「気象」「地形」「開発」「都市経営」の観点から整理し、日本が培ってきた防災の知見と照らし合わせながら、インドネシアが今後取り組むべき国土・都市づくりの方向性、そして日本とインドネシアの協業の可能性を考察します。

目次

スマトラ島で災害が深刻化する三つの要因

(1)気候変動で「雨の降り方」が変わった

インドネシア周辺では、熱帯低気圧やモンスーンの変動により、短時間での豪雨が起きやすくなっています。従来は「季節の雨」として受け止められてきた降雨が、河川の急激な増水や斜面崩壊を引き起こすレベルに達している点が問題です。特にスマトラ島は山岳地帯と広い流域を併せ持つため、上流の雨が下流の都市部に短時間で集中し、被害が連鎖的に拡大しやすい地形条件にあります。

(2)森林破壊と土地造成が保水力を奪った

次に、人為的要因として大きいのが、森林伐採やプランテーション開発、鉱山開発に伴う土地造成です。森林が持つ「雨を受け止め、ゆっくり流す」機能が失われると、雨水は地中に浸透せず、地表を一気に流れて河川に流入します。結果として、同じ雨量でも洪水が起きやすくなり、土砂の流出も増え、橋梁や道路の破壊を招きます。災害は雨だけで起きるのではなく、土地の使い方で増幅するという点が重要です。

(3)防災を前提にしない居住と都市計画

さらに、河川沿いや急斜面への居住拡大、防災を前提にしない市街地形成が人的被害を増やします。危険区域の明確化や建築規制、移転支援は政治的に難しいテーマですが、ここを先送りすると「被害が出る場所に人が住み続ける」構造が固定化されます。災害後の復旧は進んでも、同じ場所で同じ被害が繰り返されるのは、この構造が温存されるためです。

災害がもたらす「見えないコスト」

災害による損失は、家屋の流失やインフラ破壊といった直接被害だけではありません。道路寸断による物流停滞、農業・観光の停止、地域企業の資金繰り悪化、学校閉鎖による学習機会の損失など、生活と経済に長期的な影響が残ります。復旧費が膨らめば、教育・医療・産業振興に回るべき予算が圧迫され、都市の成長力そのものが削がれます。災害対策を「支出」とみなすほど、結果として将来コストが増えていくという逆説が起きます。

日本に学ぶ「災害と共存する社会設計」

日本も台風・豪雨・地震といった複合災害に常にさらされてきました。それでも人的被害を一定程度抑えられている背景には、災害を例外ではなく前提条件として扱う仕組みがあります。

第一に、ハザードマップや警戒区域指定など、危険を可視化して共有する仕組みです。第二に、砂防ダム、擁壁、ワイヤーネット、河川改修、堤防強化、遊水地など、ハード面の対策を長期的に積み上げてきた点です。第三に、避難訓練や防災教育を通じて「逃げる行動」を社会に定着させた点です。これらは単発の施策ではなく、制度・予算・教育が連動して成立しています。

インドネシアが今すぐ進めるべき施策

インドネシアで優先すべきは、(1)リスクの可視化、(2)重点地域への構造対策、(3)都市計画への防災組み込みの三点と考えられます。

第一に、洪水・土砂災害リスクの地図化と公開を徹底し、危険区域を行政・住民・投資家が同じ情報として参照できる状態を作ることです。第二に、被害が集中する流域や斜面に資源を集中させ、砂防施設や斜面補強、河川断面の確保、放水路・遊水地の整備など、効果が大きい対策から実装することです。第三に、都市開発許認可、住宅政策、インフラ投資の意思決定に「災害リスク」を組み込み、開発と防災を切り離さないことです。

加えて、防災は不動産・金融にも直結します。災害リスクが高い地域では、不動産価値の下落や投資回収リスクが顕在化し、保険料率にも影響します。裏を返せば、防災型都市づくりは投資環境を安定させ、長期の資本を呼び込みやすくします。

まとめ

インドネシアの災害多発は悲劇である一方で、日本にとっては防災・減災分野で協業できる余地でもあります。日本は防災インフラ技術、都市計画の知見、官民連携(PPP)の経験を持ち、制度設計から実装までの「運用の知恵」を蓄積してきました。

弊社インドネシア総合研究所は、日本企業の参入戦略立案、中央政府・地方政府・国営企業との調整、実務レベルのプロジェクト設計を支援いたします。技術を持ち込むだけでなく、制度・文化・予算制約を踏まえたローカライズ、契約・事業スキームの設計、長期運用を見据えた体制づくりまで伴走することで、実現性の高い協業を後押しします。

また、ハード整備だけでは十分ではありません。日本の経験が示す通り、住民・学校・企業が「災害は起こる」という前提を共有し、警報の受け取り方や避難の判断基準を日常的に訓練しておくことが被害を左右します。インドネシアでも、防災訓練の学校教育への組み込み、自治体単位での避難計画の整備、地域コミュニティとメディアを巻き込んだ啓発が重要です。政府・大学・企業・コミュニティ・メディアが連携するペンタヘリックス型で、防災マインドを社会に根付かせる取り組みは、政策の実効性を高め、投資や開発の判断にも共通の基盤を提供します。

昨年末に起こったインドネシア・スマトラ島の災害は、自然現象に加え、国土と都市の設計思想が問われている出来事です。災害を前提に都市を設計するか、災害後に復旧を繰り返すかで、社会の持続性は大きく変わります。日本が培ってきた「災害と共存する知恵」を活かし、インドネシアが成長と強靭性を両立する道筋を描けるかが、今後の大きな分岐点となるでしょう。

関連コラム

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次