【コラム】AIで医療アクセスを改善するインドネシアのヘルステック・スタートアップ
世界最大の群島国家であるインドネシアは、17,000以上の島々に散らばる2億7976万人以上の人口に十分な医療アクセスを提供するという課題に長年直面してきました。しかし近年、遠隔診療と人工知能(AI)を活用して、医療へのアクセスと質のギャップを埋めようとする「ヘルステック」スタートアップ企業が台頭し、インドネシアの医療事情に革命を起こし始めています。
「ヘルステック(HealthTech)」とは、「Healthcare(ヘルスケア)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、ヘルスケアや医療とテクノロジーを融合し、新たな価値を創造するための取り組みを指します。インドネシアのヘルステック・セクターは目覚ましい成長を遂げており、その計り知れない可能性に各国から注目が集まっています。
インドネシアの医療技術における最も重要な発展のひとつは、遠隔診療の急速な普及です。遠隔診療とは、遠隔地の患者が長距離を移動することなく医師のアドバイスを受けることを可能にするだけでなく、遠隔患者モニタリングにより、継続的な健康データの追跡や慢性疾患への早期介入を可能にするソリューションです。
インドネシアで2016年に設立された遠隔医療のスタートアップ『Halodoc』は、この分野のリーダーとして台頭してきました。Halodocは、2万人以上の医師免許を持つ医師とユーザーを結びつけ、オンライン診察、処方箋の配達、検査予約等のサービスを提供しています。2020年のCOVID-19パンデミックも、Halodocのユーザー増加に拍車をかけた要因となりました。Halodocは国外における注目度も高く、世界中のVC(ベンチャーキャピタル)から高額の投資を受けています。
インドネシアのヘルステック業界における見逃せないもう一つのスタートアップは、2014年に設立された『Alodokter』です。AlodokterはHalodocと同様のサービスを提供していますが、更に包括的な健康情報データベースも含んでいる。Alodokterの月間アクティブユーザー数は3,000万人を超え、8万人以上の医師が登録されている、インドネシアでNo.1のデジタルヘルスプラットフォームとなっています。創業以来、正確で分かり易く、いつでも、どこでも、誰でもアクセスできる健康情報を提供し続けています。
HalodocやAlodokterなどの遠隔診療プラットフォームは、インドネシアの農村部や遠隔地で特に大きな効果を上げています。例えば、インドネシア医師会のデータによると、人口約540万人を抱えるインドネシアのパプア地域の6つの州には335人の専門医しかいないと言われており、医師と患者の比率が1:16,119と大変低くなっています(※インドネシア全体平均では1:1,439)。このような地域において、遠隔診療は、以前は最寄りの医療施設まで何時間も、或いは何日もかけて行かなければならなかった多くの住民に欠かせないライフラインを提供しているのです。
AIを活用したソリューション診断と治療の強化
遠隔医療にとどまらず、インドネシアのヘルステック・スタートアップ企業は、医療の成果を向上させるためにAIを積極的に取り入れています。2016年に設立された『Nalagenetics』は、AIと遺伝子検査を利用して、パーソナライズ化された医薬品の提案を可能にしています。同社のAIアルゴリズムは検査を受けた人の遺伝子データを分析し、薬物反応や潜在的な副作用を予測することで、医師がより確かな情報に基づいた治療を患者に提供できるようサポートしています。
メンタルヘルスもAIが躍進している分野の一つです。2015年に設立された『Riliv』は、企業向けのメンタルヘルス・サービスを展開し、従業員の生産性を継続的にサポートするために、AIを搭載したチャットボットによるメンタルヘルス診断、プロの心理士によるコンサルテーション、財務アドバイス、栄養指導、セルフケア・リソース、トレーニングやウェビナーなどを提供しています。Rilivの成功には、企業が従業員の心身の健康や幸福度を重視するようになった時代の変化や社会の風潮も反映されているのではないでしょうか。
ケーススタディテクノロジーで妊産婦死亡率に取り組む
インドネシアでは、出生10万人当たり173人の女性が妊娠に関連した原因で死亡しています(2020年)。この数値は、東アジア・太平洋地域平均である出生10万人当たり74人より高い妊産婦死亡率となっています。この問題に対処するため、2018年に設立したスタートアップSehati TeleCTGは、遠隔胎児モニタリングのためのAI搭載心電図(CTG)装置を開発しました。
このデバイスは、農村部の助産師がハイリスク妊娠をモニタリングするために使用することができ、接続されたプラットフォームを介して都市部の産科医からリアルタイムの的確な指示やアドバイスを受け取ることを可能にしています。2020年に西ジャワ州で実施された導入実験では、Sehati TeleCTGは、ハイリスク妊娠の特定と照会にかかる時間を60%短縮し、未発見であれば失われてしまう可能性があった多数の命を救いました。Sehati TeleCTGは現在インドネシア保健省と提携し、国内のより多くの農村地域に同サービスを展開しています。
今後、インドネシアの医療支出は年間11.7%のペースで2027年には1,224兆IDR(750億ドル)になると予測されています。上述のようなヘルステックのスタートアップ企業がイノベーションを続け、サービスを拡大する中、AI、ブロックチェーン、モノのインターネット(IoT)などの技術の統合は、列島全体の医療アクセスや質と効率を向上させる新たな可能性を開く可能性に満ち溢れています。インドネシアのヘルステック産業に、日本からも投資もしくは参入してみませんか。詳しくは弊社インドネシア総合研究所までお気軽にお問い合わせくださいませ。
参考
https://www.alodokter.com/about
https://www.halodoc.com
https://www.nalagenetics.com/products/bundling/women-health
https://riliv.co/en/company
https://telectg.co/en/
https://www.kompas.id/baca/nusantara/2023/03/28/6-provinsi-di-papua-krisis-dokter-spesialis-pelayanan-kesehatan-tak-optimal
https://tradingeconomics.com/indonesia/physicians-per-1-000-people-wb-data.html#:~:text=Physicians%20(per%201%2C000%20people)%20in,compiled%20from%20officially%20recognized%20sources.
https://www.trade.gov/healthcare-resource-guide-indonesia#:~:text=Healthcare%20spending%20in%20Indonesia%20was,10.0%25%20in%20U.S.%20dollar%20terms.