暦から読み解くインドネシア・ジャワと日本の文化-六曜とウェトンに見る“縁起”の哲学

こんにちは、インドネシア総合研究所代表のアルビーです。

日本では、結婚式の日取りに「大安」を選んだり、葬儀の際に「友引」を避けたりすることは、今でもそれほど珍しくないと思います。折に触れて縁起を担ぐというのは、何も日本人に限ったことではありません。インドネシアで最大多数派民族のジャワの人々にとっても、人生の節目を迎える際に独自の暦を大切にしています。今日は、日本とは少し趣の異なるジャワの暦について、お話してみたいと思います。

目次

日本の「六曜」:社会生活における「縁起」のルール

まず、日本では馴染みの深い「六曜」から見ていきましょう。六曜は「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6種類からなり、暦注としてカレンダーに記載されているのはご存知のとおりです。その起源は14世紀頃に中国から伝来した占術にあるとされますが、日本で一般に広く普及したのは比較的遅く、江戸時代末期のことと考えられています。

六曜の興味深い点は、それが仏教や神道と直接的には関係しない、民間の習俗であるという点です。例えば、「仏滅」という言葉は仏教を連想させますが、元々は「物滅」と書かれ、「全ての物が滅する日」を意味したものが、後に「仏」の字が当てられたに過ぎないとも言われています。

現代の日本社会において、六曜が最も大きな影響力を持つのは、冠婚葬祭の場面ではないかと思います。「大安」は万事吉とされる最良の日として結婚式の日取りで最も人気があり、週末の大安ともなれば、式場は一年以上も前から予約が埋まると聞きます。逆に「友引」は「友を(冥土へ)引く」ことを連想されることから葬儀を避ける、という慣習は非常に根強く、現在でも全国の多くの火葬場が友引を定休日としているようです。

これらは、個人の信仰というよりは、親族や参列者の中に気にする人がいるかもしれないという「社会的な配慮」や「人間関係の潤滑油」の表れという側面が強いように思われます。六曜は、特定の日が持つ外面的な「縁起」を社会全体で共有し、物事を円滑に進めるための、いわば「社会のルール」として機能しているのではないかと私は考えています。

ジャワ暦の宇宙観:パサラン、ウェトン、ネプトゥ

一方、インドネシアのジャワ民族の間には、日本の六曜とは異なる暦の体系があり、今なお人々の精神生活に深く根付いています。その歴史は、インドネシア土着のアニミズム信仰を基層に、ヒンドゥー・仏教、そしてイスラム教が重層的に融合した「シンクレティズム(宗教混淆)」の文化を色濃く反映しています。

その核心をなすのが「パサラン(Pasaran)」と呼ばれる、ジャワ古来の5日間周期の週です。その語源は「市場(Pasar)」で、かつてインドネシア・ジャワの村々では5日ごとに市(いち)が立ち、人々が集まっていたことに由来します。しかし、この5つの曜日(Legi, Pahing, Pon, Wage, Kliwon)は単なる曜日の名称に留まりません。それぞれに方角や色といった象徴的な意味が与えられ、一つの宇宙観を形成しているのです。

そして、この5日周期の「パサラン」と、私たちが普段から使っている7日周期の曜日(Dina Pitu)が組み合わさることで、「ウェトン(Weton)」と呼ばれる35日間(5×7)で一巡する周期が生まれます。ジャワ文化において、この「ウェトン」こそが、その人物の性格、才能、健康、そして生涯の運命を決定づける「精神的な誕生日」として、極めて重要な意味を持ちます。

このウェトンの核となるのが、「ネプトゥ(Neptu)」と呼ばれる独自の数値システムです。7つの曜日と5つのパサランにはそれぞれ固有の数値が割り当てられており、それらを足し合わせることで、その日や個人が持つ「霊的な力の価」が算出されます。ジャワでは結婚相手を選ぶ際に、2人の生誕日のウェトンからネプトゥを算出し、その合計値で2人の相性を占うことが伝統的に重視されてきました。その結果は「Jodoh(恋人)」や「Pegat(離婚)」といった8つのカテゴリーに分類され、2人の未来を予言するとも言われています。

さらに、ウェトンは個人の運命だけでなく、共同体が行う儀礼の際などにも重んじられます。例えば、魔除けや災難除けを目的とした伝統影絵芝居「ワヤン・クリ」の上演は、現実世界と霊的世界の間の門が開くと信じられている「ジュムアット・クリウォン(金曜日のクリウォン)」や「スラサ・クリウォン(火曜日のクリウォン)」の夜が選ばれます。こうした日に儀式を行うことで、大きな精神的な力がもたらされると考えられているのです。

「内向きの羅針盤」と「外向きの信号機」:二つの暦が示す文化の深層

日本の六曜とインドネシア・ジャワのウェトンは共に暦を用いて吉凶を判断する点で似ています。しかしながら、その眼差しが向かう先はとても異なります。六曜は主に、結婚式や葬儀といった社会的なイベントを「いつ行うべきか」を判断するためのものと捉えられているのに対し、ジャワのウェトンは、「あなたという個人がどのような運命を持って生まれてきたか」を読み解き、人生の重要な決断を下すためのものです。

六曜は、誰にとっても同じ「その日の吉凶」を示し、社会のルールとして機能する「外向きの信号機」のような役割を果たしています。「友引に葬儀はしない」というルールは、交通信号の「赤信号では止まる」という社会的な約束事にどこか似ています。六曜は「今日という日」の性質を語るだけで、そこに「あなた」という個人は介在しません。一方で、ウェトンは、個人の生年月日を基点として、その人の性格、他者との相性、そして宇宙との関係性までも示唆し、人生の航路を照らし出す「内向きの羅針盤」としての役割を担っています。

集団の調和を優先し、他者への配慮から生まれる社会的摩擦を避けることを重視する日本文化と、個人と宇宙との調和を求め、人生のあらゆる側面に意味と秩序を見出そうとするジャワ文化。2つの暦を通して、それぞれの文化の深層が垣間見えるように私は感じました。

インドネシアでビジネスを進める上で、相手の意思決定の背景にある文化的な価値観や慣習を理解することはとても重要です。お互いの文化の共通点、何よりも相違点を知り、それに敬意を払う姿勢こそが、強固な人間関係や信頼関係を築く上で不可欠となります。

弊社インドネシア総合研究所では、こうした現地の文化や慣習に関する深い理解に基づいた市場調査やビジネスコンサルティングを提供しております。インドネシア市場へのご関心やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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