【アルビー日記】土壌から始まるインドネシアの未来:ラトノ氏と挑む農業再生

皆様こんにちは、インドネシア総合研究所代表のアルビーです。

インドネシアを語る上で、その多様な文化や急速な経済発展が注目されがちですが、国家の根幹を支える最も重要な基盤の一つが「農業」であることは疑う余地がありません。2.8億人の胃袋を満たし、国の食料安全保障を確立するためには、持続可能で生産性の高い農業の実現が不可欠です。その鍵を握るのが、全ての生命の源である「土壌」です。

先日、この分野で長年にわたり多大な貢献をされてきたラトノ・ソエジプタディ氏にお会いしました。この記事では、ラトノ氏がこれまで歩んできた道のりと、私たちがラトノ氏と共に始めた土壌改善への新たな取り組みについてご紹介します。

目次

インドネシア農業の根幹を支える「土壌の達人」、ラトノ・ソエジプタディ

ラトノ・ソエジプタディ氏は、インドネシアが世界に誇る土壌科学の専門家です。ラトノ氏の活動分野は、アグリビジネス開発から土地・土壌科学、さらには飢餓や貧困問題といった地球規模の課題にまで及びます。その卓越した知見から、2014年から現在までインドネシア政府のアドバイザーも務めており、まさに国策レベルでインドネシア農業の未来をデザインする「土壌の達人」と呼ぶにふさわしい方です。

土壌科学への情熱:世界レベルの学識と経験

ラトノ氏の揺るぎない専門性の基盤は、そのプロフィールからも見て取れます。ラトノ氏はボゴール農業大学(IPB)で土壌科学の学士号を取得後、同大学でアグリビジネスの修士号を取得しました。その探求心は国内に留まらず、渡米してハワイ大学マノア校大学院へと進学し、土壌生産性に影響を与える微生物に関する研究で博士号を取得しています。この研究が、現在まで続く微生物の力を利用した土壌改良技術というラトノ氏の活動の根幹を成しています。

アジア開発銀行や世界銀行が関わる農村開発プロジェクトから、アフガニスタンやバングラデシュでの土壌改良に基づく飢餓援助チームのリーダーまで、その活動は国境を越えます。こうしたグローバルな視点と現場での実践が、ラトノ氏の理論をより強固なものにしていると考えられます。

世界最大のパイナップル企業での卓越した実績

ラトノ氏のキャリアを語る上で欠かせないのが、ランプン州にあるグレートジャイアントパイナップル社(以下GGPC)での約27年間にわたる経験です。彼はここで生産ディレクターとして、同社を世界的なアグリビジネス企業へと成長させる原動力となりました。

・グレートジャイアントパイナップル社公式サイト

https://www.greatgiantfoods.com/

GGPCは、世界最大級の缶詰パイナップル生産者として知られています。ラトノ氏が在籍していた当時の農園規模は、パイナップル農園が38,000ヘクタール、バナナ農園が4,300ヘクタール、キャッサバ農園が6,000ヘクタールにも及び、約18,000人の従業員が働き、49,000頭の牛を飼育する統合的な農業ビジネスを展開していたとのことです。生産される製品の実に9割以上が、世界63カ国に輸出されていたことからも、その規模と品質の高さがわかります。

「ゼロウェイスト」と持続可能な農業モデル

GGPCにおけるラトノ氏の業務は、生産計画や品質管理に留まらず、土地の適性調査、灌漑設計、人材開発、研究開発、環境管理、さらには地域社会との共生プログラムにまで及びました。GGPCでは、全ての廃棄物を付加価値のある製品に変え、固形廃棄物と液体廃棄物を最終的に土壌に戻すという、「ゼロウェイスト」を目標に掲げており、徹底した循環型農業を実践する巨大な農業事業体において、ラトノ氏が生産性向上と環境保全を両立させるという、極めて困難な課題に取り組んできました。

新たな挑戦:ボヨラリ県での土壌改善プロジェクト

そして今、ラトノ氏が長年培ってきた知見と技術、そして哲学が、弊社との共同プロジェクトという形で新たな一歩を踏み出しました。弊社では現在、中部ジャワ州のボヨラリ県にある水田地帯で、田んぼの土壌を根本から改善するための試験農場を運営しています。

このプロジェクトの核となるのが、ラトノ氏が開発した人・動物・環境に無害な「チップソイル(Chip Soil)」という土壌改良材です。これは、土壌に有益なプロバイオティクス(生きた微生物)とプレバイオティクス(微生物の餌)とを供給するもので、土壌本来の生物学的バランスを回復させるものです。有益な微生物が土壌に増えることで、病原菌が抑制され、有機物の分解が促進されます。そして、植物の成長に不可欠な栄養素が吸収されやすい形に変わり、化学肥料や農薬に過度に依存することなく、作物の健康と収量を飛躍的に向上させることが期待されます。

ボヨラリの試験農場では、この技術を用いて土壌の状態を科学的に分析し、稲の生育状況や収穫量、品質の変化を詳細に記録しています。この小さな田んぼから、インドネシア全土の稲作を変革する大きなうねりを起こすこと、それが私たちの大きな目標です。

未来の食料安全保障に向けた確かな一歩

ラトノ氏との出会い、そしてボヨラリでのプロジェクトは、単なる一過性のものではありません。これは、気候変動や土壌劣化といった地球規模の課題に直面する食料安全保障を、足元の「土」から支え直すという長期的で壮大な挑戦です。このボヨラリでの取り組みが成功モデルとなり、全国の農家へと広がっていく日を夢見て、これからも挑戦を続けてまいります。

弊社では、今回ご紹介したようなインドネシアの様々な専門家との連携による事業展開支援や、持続可能な農業に関するフィージビリティスタディ、市場調査なども行っています。皆様、是非お気軽にお問い合わせください。

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