インドネシア無償給食プログラムの現実:拡大の現状と直面する課題

インドネシアでは、栄養失調や発育阻害が深刻な社会課題となっています。

2022年のインドネシア栄養状況調査によると、発育阻害率は21.6%に達しており、将来の人材育成や経済成長に大きな影響を与える可能性が指摘されています。

こうした現状を受け、プラボウォ大統領は新たな政策として「無償給食プログラム(MBG:Makan Bergizi Gratis)」を導入しました。本コラムでは、このプログラムの概要や現状、課題についてご紹介します。

目次

インドネシア無償給食プログラム(MBG)とは

MBGは、子ども、妊婦、授乳中の母親に栄養価の高い食事を無料で提供する国の取り組みで、2025年1月6日より正式にスタートしました。

プログラムは2024年の大統領令第83号に基づき設立された「国家栄養庁(BGN)」が中心となって進めています。

  • 対象者:幼稚園児から高校生までの子ども、妊婦、授乳中の母親
  • 提供内容:幼稚園〜小学生には朝食、中高生には昼食を無料提供
  • 目的:発育阻害の予防、欠席率・中退率の低下、若年層の健全な成長による経済基盤の強化

この政策は、インドネシア独立100周年にあたる2045年までに先進国入りを目指す「インドネシア・エマス2045(Indonesia Emas 2045)」ビジョンの重要な柱でもあります。

参考WEBサイト:https://indonesiabaik.id/infografis/kenalan-sama-program-mbg

インドネシア無償給食プログラムの規模と影響

2025年8月時点で、インドネシアの38州・5,800拠点で無償給食が提供されており、すでに約2,000万人がプログラムの恩恵を受けています。

インドネシア政府は2025年末までに、対象となるすべての子どもや母親に給食が行き渡ることを目標としています。

さらに、このプログラムは教育だけでなく、雇用や地域経済にも良い影響をもたらしています。

給食を作るために29万人の雇用が創出され、約100万人の農家、漁師、畜産農家、中小企業が食材の供給に関わっています。

これにより、栄養改善だけでなく地方経済の活性化にも貢献しているといえます。

参考WEBサイト:https://www.setneg.go.id/baca/index/makan_bergizi_gratis_dan_sdm_unggul#:~:text=Dengan%20generasi%20yang%20sehat%2C%20cerdas,Semoga.
https://www.presidenri.go.id/siaran-pers/presiden-prabowo-targetkan-seluruh-anak-dapat-akses-makan-bergizi-gratis-pada-akhir-2025
https://mmc.kalteng.go.id/berita/read/48387/capaian-299-hari-presiden-prabowo-makan-bergizi-gratis-telah-menjangkau-20-juta-orang

インドネシア無償給食プログラムのメニュー

以下は、実際に提供された無料給食プログラムのメニュー例です。

地域ごとにメニューは異なります。

ジャカルタ特別州西ジャカルタでの学校

白米、照り焼きチキン、揚げ豆腐、長豆の炒め物、オレンジ

ランプン州中央ランプンの学校

白米、照り焼きチキン、長豆ともやしの炒めもの、スイカ

西ジャワ州インドマラユの学校

白米、フライドチキン、長豆とテンペの炒めもの、パパイヤ、牛乳

南スマトラ州パレンバンの学校

豆腐、テンペ、野菜、バナナ

西スマトラ州パリアマンの学校

白米、鶏肉、卵、野菜、果物

提供されている給食は4〜5品で、ご飯やパンなどの主食、肉・魚・卵・大豆などの主菜やきのこなどの副菜、果物という構成になっており、1日の必要栄養素の25〜35%を満たすように作られています。

一方で、SNS上でメニューの写真が拡散されると、タンパク質と野菜の量が少ないという声が多く上がり、メニューの改善も課題のひとつとなっています。

参考WEBサイト:https://www.tempo.co/politik/ini-menu-makan-bergizi-gratis-hari-pertama-di-sejumlah-daerah–1190733

インドネシア無償給食プログラムの課題

2025年6月時点で、複数地域において1,376人以上の生徒が食中毒とみられる症状を訴える事例が報告されています。

保健当局の調査ではサルモネラ菌や大腸菌が検出されており、衛生管理の徹底が急務です。

また、2025年度国家予算では約71兆ルピア(約6,400億円)が計上されていますが、今後対象者が拡大すれば予算が膨らむ懸念もあります。

国と地方政府の連携による予算効率化や透明性の確保が求められています。

さらに、無償給食プログラムのパートナー企業を巻き込んだ約10億ルピア規模の詐欺事件も発生しており、ガバナンス面での課題も浮き彫りになっています。

全体でみると、最終的な目標としている給食センターは約30,000拠点であり、現状の約6,000拠点という数字を見ると、順調に事業は拡大しているものの、まだまだ拠点数は足りていません。

参考WEBサイト:https://www.bbc.com/indonesia/articles/cm2zney05ypo
https://theconversation.com/rentetan-fakta-masalah-mbg-yang-telah-diprediksi-jauh-sebelumnya-256130

今回のコラムでは、インドネシアの無償給食プログラムについてご紹介しました。

MBGは、インドネシアの未来を担う子どもたちの健康と教育を支える重要な政策です。

一方で、衛生管理や予算の持続可能性といった課題も浮き彫りになっています。

今後の改善と継続的な実施が、インドネシアの人材育成と経済成長の鍵となるでしょう。

なお、日本政府もUNICEFを通じて約5.6億円の無償資金協力を行っており、今後は日本企業がこのプログラムに関わる可能性もあります。

弊社インドネシア総研では、現地市場の動向調査からビジネス展開のご支援まで、幅広くサービスを提供しております。

インドネシア市場に関するご相談やご関心がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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