なぜインドネシアではレバラン前にお金が動くのか?THRの仕組みと経済効果

インドネシアにおいて「レバラン(Lebaran)」は、イスラム教の断食月ラマダン明けを祝う一年で最も重要な祝祭です。正式には「イドゥル・フィトリ(Idul Fitri)」と呼ばれ、宗教行事であると同時に、家族・親族が集まり、故郷へ帰省し、人と人との関係を再確認する社会的イベントでもあります。

多くの企業や官公庁が長期休暇に入り、インドネシア都市部では人が減る一方、地方都市や出身地には人とお金が一気に流れ込みます。レバランは単なる祝日ではなく、インドネシア社会全体の生活リズムと経済活動を大きく切り替える節目と言える存在です。

目次

THRとは?インドネシアの宗教大祭手当の基礎

THR(Tunjangan Hari Raya)は、レバラン前に企業が従業員へ支給する「宗教大祭手当」です。法律により支給が義務付けられており、原則として勤続1年以上の従業員には1か月分の給与相当額が支給されます(勤続期間に応じた按分規定あり)。

このTHRは、業績に応じる賞与とは異なり「必ず支払われるもの」として社会に定着しています。そのため、多くの家庭ではTHRを前提に、レバラン前後の支出計画が立てられます。言い換えれば、THRは個人消費を一斉に押し上げるための明確な起点です。

THRはいつ支給される?支払い期限と注意点

THRはレバラン(Idul Fitri)前に必ず支給されるべきと法律で定められています。労働省規則により、支給期限はレバランの7日前までとなっており、直前支給や支払い遅延は法令違反と見なされる可能性があります。

そのため、企業側は支給予定日をあらかじめ決め、給与計算と合わせて検討することが多いです。一般的にはレバランの1〜2週間前に支給される企業が主流で、従業員もその時期を見込んで準備を進めています。

THRはいくら支払う?支給額と計算方法

THRは勤続1年以上の従業員に対し、基本給1か月分として支給することが義務付けられています。

一方、勤続期間が1年未満の場合は按分支給となり、以下の算式が参考になります。

(勤続月数 ÷ 12)× 1ヶ月分の基本給

作業内容に応じて手当が含まれる場合もありますが、一般的には固定給部分をベースとするケースが多いです。また、契約社員や期間従業員にも適用されるため、雇用形態を問わず注意が必要です。

THRを払わないとどうなる?企業側の罰則まとめ

THRの支給が遅れたり支払われなかったりした場合、労働法上の罰則が適用される可能性があります。代表的な処罰は次のとおりです。

  • 支給遅延:支給額の5%の遅延利息が課される
  • 未払い:行政処分・罰金の対象(最大 Rp 50,000,000 程度の罰金が課される可能性があるとされています。)※規制更新に応じて変動の可能性あり

従業員が不服申し立てを行い、労働監督局に通報すれば、企業が行政指導や監査対象となることもあります。企業側は支給計画を前倒しで準備し、財務・人事部門が連携して対応することが求められます。 

出典: InvestinAsia「Tunjangan Hari Raya (THR) in Indonesia」

THRは経済をどう動かす?レバラン期の消費行動

THRは、レバラン前に企業が従業員へ支給する特別手当であり、インドネシア社会に深く根付いた制度です。

THRの支給は単なる給与イベントではなく、消費行動を一斉に動かし、結果としてインドネシア経済の季節的なピークを形成します。THRは単なる臨時収入にとどまらず、レバラン前後の消費行動と結びついて一気に流通します。企業による従業員へのTHR支給は、国内の数千万人単位の労働者に同時に現金が渡るため、全国的な購買力の跳ね上がりにつながります。

支給されたTHRのうち多くは貯蓄ではなく消費に向かう傾向があり、一部調査では、支給額の6割〜8割が数週間以内に市場に戻るとする見方も示されています。

支出が集中する主な項目は以下のとおりです。

  • レバラン用の服(Baju Lebaran)
  • 菓子・食品
  • 帰省(Mudik)に伴う交通費や滞在費
  • 親族や友人への贈答品(Parcel)
  • 宗教寄付(Zakat、Sedekah)

特にTHR支給週は、ECやスーパーの売り上げが急増します。

都市部から地方都市へ人の流れに合わせ、資金も都市→地方へダイレクトに流れるため、地方経済の活性化にもつながります。

この動きは消費者心理とも強く連動しており、オンラインショップなどの販売戦略やキャンペーンの時期はTHR支給前~直後に設定することが一般的です。

日系企業が押さえておきたい実務対応ポイント

THRの支給は単なる一時的な給与支払いにとどまらず、企業運営にも影響する重要なイベントです。日系企業では、制度理解とともに、ラマダン中の働き方や生活リズムの変化を踏まえた対応が求められます。

まず、人事・給与部門は支給日の前倒し準備が欠かせません。支給対象者の整理、金額の算出、財務部門との調整を事前に行うことで、遅延や誤払いを防ぐことができます。

総務部門では、レバラン前後の有給取得の集中を見越した体制作りがポイントです。業務引き継ぎやスケジュール調整を進めるほか、断食期間中は午前に会議が集中するなど、働く時間帯の変化にも配慮が必要です。

営業・マーケティング面では、購買が最も活発になるのはTHR支給直後です。商談やキャンペーン実施の時期を通常月より前倒しに計画するなど、需要のピークを押さえる動きが一般的です。

また、インドネシア駐在員や管理職にとっては、現地従業員の生活背景と文化を尊重する姿勢が求められます。ラマダンとレバランは家族と過ごす特別な期間であり、普段とは働き方の優先順位が異なる場合もあります。制度と文化の両面を理解することが、信頼関係づくりにつながります。

インドネシア社会全体の消費動向とビジネス機会

こうした個人レベルの支出行動は、インドネシアの社会全体の消費にもはっきりと表れます。

ラマダン後半からレバラン直前にかけて、小売、飲食、交通、EC、デリバリー、通信会社など多くの業界で売上が同時に伸びる傾向が見られます。特に注目すべきは、消費が「一日中均等に」発生するのではなく、期間・時間帯を限定して集中することです。

  • 夕方の外食・イフタール需要
  • レバラン前の週末のショッピングモールの混雑
  • THR支給直後の大型まとめ買い
  • 帰省開始日の交通・航空券価格上昇

こうした時期特有のピークは、インドネシア経済全体の典型的なリズムとして定着しています。そのため、THRとレバラン期の消費特性を理解せずに、通常月と同じ指標で市場を評価したり、広告や在庫投資を組み立てると、実態を見誤る可能性があります。

インドネシア市場では、宗教行事・習慣・制度が消費行動に及ぼす影響を前提にした分析が欠かせません。

まとめ

THRは、インドネシアにおけるレバラン経済の出発点とも言えます。インドネシアの人々はTHRを受け取り、身なりを整え、家を整え、贈り物を用意し、故郷へ帰ります。その一連の行動が、結果として都市から地方へ、個人から社会へと消費を広げていきます。

レバラン期のインドネシアは「静かな祝祭期間」ではありません。むしろ、宗教・文化・制度が結びついた、最もダイナミックに経済が動く季節です。THRを理解することは、インドネシアの消費構造そのものを理解することにつながります。

インドネシア市場の動向分析や、ラマダン・レバラン期を見据えた事業戦略に関するご相談がございましたら、ぜひインドネシア総研までお気軽にお問い合わせください。

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