インドネシアで進むMigrant Center設立 ― 日本企業が注目すべき新たな人材パートナーシップ

インドネシアは、世界トップ規模の人口を有し、若年層が社会の大きな割合を占めています。その一方で、毎年多くの人々が海外で働く「移住労働者(Migrant Workers)」として世界各国に送り出されています。特に日本や中東、ASEAN諸国は主要な受け入れ先となっており、インドネシアにとって移住労働者の存在は経済・社会の両面で大きな意味を持ちます。
しかし、これまで海外就労に関する情報不足や違法仲介、人身取引といったリスクが課題として残っていました。こうした状況に対して、インドネシア政府は「Migrant Center(移住労働者センター)」の整備を公式に進めています。特に注目すべきは、国の中枢機関である移住労働者保護省(KemenP2MI/旧BP2MI)と大学との連携により、キャンパス内にMigrant Centerが設立され始めていることです。
2025年には4つの大学が正式に「Migrant Center」として認定されました。本稿では、それぞれの大学とセンターの概要、そしてMigrant Centerが果たす役割について詳しく見ていきます。
インドネシアでMigrant Centerとして公式に認められた大学4件
1. ディポネゴロ大学(Universitas Diponegoro/UNDIP)
2025年6月26日、ジャワ島中部スマランの名門大学であるディポネゴロ大学(UNDIP)がMigrant Centerとして公式に開設しました。拠点は大学の職業大学(Vocational School)内に設けられ、モデル拠点として全国の大学に先駆けた取り組みとされています。
UNDIP Migrant Centerは、
- 就労情報の提供
- 能力開発(語学・ソフトスキル)
- 職能資格認証の支援
- 求人マッチング・配置サービス
を統合的に行う「ワンストップ拠点」として設計されており、学生や地域住民が安全に海外就労を目指せるよう制度化されています。
Diponegoro大学 Migrant Centerについて
https://undip.ac.id/language/en/post/49079/minister-abdul-kadir-karding-inaugurates-undip-migrant-center-expands-access-to-global-professional-job-opportunities.html
2. パダン国立大学(Universitas Negeri Padang/UNP)
2025年6月28日には、西スマトラ州パダンにあるパダン国立大学(UNP)にMigrant Centerが設立されました。UNPはスマトラ地域で初の公式センターであり、地方における越境就労の窓口として期待されています。
UNP Migrant Centerの特徴は、特にリスク防止に重点を置いている点です。違法な仲介業者や人身取引、詐欺的就労の被害を未然に防ぐため、公式求人情報の案内や正規手続きのサポートを行います。また、国連のSDGs(持続可能な開発目標)のうち、
- 目標8:ディーセントワークと経済成長
- 目標10:不平等の削減
- 目標16:平和と公正
といった項目への貢献を明確に掲げ、国際的な枠組みにも位置づけられています。
UNP Migrant Centerについて
https://sdgscenter.unp.ac.id/2025/06/29/unp-establishes-sumatras-first-migrant-center-facilitates-graduates-access-to-100-countries-supports-sdgs/
3.インドネシア教育大学(Universitas Pendidikan Indonesia/UPI)
バンドンにある教育系の名門であるインドネシア教育大学(UPI)も、2025年8月28日に「UPI Migrant Center」を開設しました。バンドンに拠点を置くUPIは、教育・研究・社会貢献の三本柱(Tri Dharma Perguruan Tinggi)を大学運営の基本に据えており、その延長線上にMigrant Centerを位置づけています。
UPI Migrant Centerは、次の5つの機能を明確に打ち出しています。
- サービス(情報提供・相談)
- 研究(移住労働政策や人権に関する調査)
- 研修(語学、スキルアップ、メンタルヘルス教育)
- アドボカシー(法的保護や政策提言)
- エンパワーメント(帰国後の経済的自立支援)
このように、単なる就労情報センターにとどまらず、大学の教育資源を活用した包括的な支援拠点としての役割を担っています。
UPI Migrant Centerについて
https://humas.upi.edu/universitas-pendidikan-indonesia-resmikan-migrant-center
4. スティアミ大学(Institut STIAMI)
首都ジャカルタでは、私立大学のInstitut STIAMIが2025年6月20日にMigrant Centerを開設しました。STIAMIは今回紹介した4校の中で唯一の非国立大学ですが、政府機関との連携を強化し、都市部の学生や地域社会に向けた拠点として注目されています。
STIAMI Migrant Centerは、
- 就労情報の提供
- 教育・研修
- 法的アドボカシー
- 地域経済のエンパワーメント
といった機能を備え、特にコミュニティ全体の底上げを目指したプログラムが多く実施されています。ジャカルタという大都市圏に位置するため、多様な人材を対象とする活動が展開されています。
STIAMI大学 Migrant Centerについて
https://stiami.ac.id/id/publikasi/berita/institut-stiami-kp2mi-hadirkan-migrant-center-perkuat-peran-kampus-dalam-isu-pekerja-migran
https://www.bp2mi.go.id/index.php/berita-detail/resmikan-stiami-migrant-center-wamen-dzulfikar-ajak-sivitas-akademika-bersiap-menghadapi-tantangan-global
弊社はSTIAMI大学と提携しており、STIAMI大学のMigran Center解説については先日のコラムでもご紹介いたしました。併せてご覧ください。

Migrant Centerの主な役割
上記の4大学に共通するMigrant Centerの役割は、大きく以下の5点に整理できます。
1. 情報提供・相談窓口
海外就労に必要な手続き・要件・求人情報をワンストップで提供することが第一の役割です。特に違法仲介や詐欺被害の予防を目的に、学生や地域住民に正しい情報を届ける仕組みが整備されています。
2. 能力開発と資格認証支援
語学教育やソフトスキル研修、金融リテラシー講座など、実務的な能力を育成します。また、海外で働く際に必要となる職能資格の認証取得を支援し、国際的に通用する人材を輩出する基盤を作ります。
3. 安全で合法的な越境就労の実現
Migrant Centerは、学生や地域住民が安全・合法・公正な方法で就労できるように導く「セーフ・マイグレーション」の推進役です。教育を通じたリスク啓発や被害防止活動がその中心にあります。
4. 研究・政策提言(アドボカシー)
大学が持つ研究機能を活かし、移住労働者の人権・法制度・健康・メンタルヘルスなど横断的テーマを調査。そこで得られたエビデンスを政府や国際機関に提言し、制度改善につなげる役割を果たします。
5. マッチング・キャリア支援
求人情報の提供から適性診断、マッチング、配置まで一貫してサポートします。また、海外での就労だけでなくインドネシアへの帰国後の就職にも注力し、持続可能なキャリア形成を支援します。
日本との関わり ― 安全で持続可能な人材交流へ
日本はインドネシア人材の主要な受け入れ先のひとつです。特定技能制度や技能実習制度を通じて、介護・製造・建設・サービス業など幅広い分野でインドネシア人が活躍しています。
今後、日本企業がインドネシアから人材を採用する際、Migrant Centerを通じた情報提供や研修・資格認証の仕組みを活用することで、信頼性の高い人材確保と安心できる送り出しスキームの構築が可能になります。Migrant Centerは、日本企業にとっても「信頼できるパートナー」となり得る存在だといえるでしょう。
事例として、先日弊社は、三重県を拠点とする株式会社TDGホールディングス様とSTIAMI大学、そして弊社の間での3社契約を行いました。この取り組みの中でインドネシアに教習所を設立し、運輸省にも働きかけを行うことで、今後日本で就労するドライバーのサポートを行ってまいります。

まとめ
インドネシアで公式に認められたMigrant Centerは、大学を拠点としながら、
- 海外就労に関する正しい情報の提供
- 能力開発・資格支援
- 安全で合法な雇用への導入
- 研究と政策提言
- キャリア形成と帰国後支援
といった多面的な役割を担っています。
ディポネゴロ大学(UNDIP)、パダン国立大学(UNP)、インドネシア教育大学(UPI)、そしてSTIAMI大学という4校が先行して取り組みを始めたことは、インドネシアにおける人材育成と移住労働者保護の歴史的な一歩です。
今後、こうしたMigrant Centerの取り組みが全国の大学へ広がり、日本を含む海外で働くインドネシア人材の「質」と「安全性」を高めることでしょう。
インドネシア総合研究所では、現地の教育機関やMigrant Centerとの連携を通じて、日イ間の人材交流をより安全で持続可能なものとするサポートを続けてまいります。
大学との提携は、弊社が提供する月次アドバイザリーなどで包括的な支援が可能です。
インドネシア人材の採用やインドネシア現地の大学、そしてMigrant Centerとの連携にご関心のある企業の皆さまは、ぜひ当研究所までお問い合わせください。


