【アルビー日記】デモからSNSへ拡散する「17+8の要求」:インドネシア市民の声を読み解く

9月1日月曜日の朝。フォロワー数600万人を超えるインフルエンサー、Jerome Polin氏がインスタグラムに投稿した一文が注目を集めました。そこに記されていたのは「17+8 Tuntutan Rakyat(17+8の国民的要求)」という言葉です。
いまインドネシアでは、InstagramやX(旧Twitter)を含む様々なソーシャルメディアで、「17+8の国民的要求」を特集したユーザー投稿が溢れかえっています。
このフレーズは、ここ数日SNSをにぎわせてきた数多くの声をひとつにまとめた合言葉です。では、「17+8」とは一体何を意味するのでしょうか?

8月後半にインドネシア各地域で発生したデモは、国会議員の特権に対する批判、労働者の権利改善の訴えが発端でした。だが全国に波及していく中で、抗議者の要求は、増税や物価上昇など、さまざまなものに発展していきました。背景には、市民の間に蔓延っていた、長年の不平等・統治・説明責任への不満や懸念があります。これらを束ねた枠組みが「17+8の国民的要求」であり、公的機関や政府への即時対応と、将来に向けた構造改革を同時に求めるものです。
この「要求」を形作っているのは、多様な声です。211の市民社会団体の要望を集めたインドネシア法律扶助財団(YLBHI)の取り組み、インドネシア法政策研究センター(PSHK)の声明、インドネシア大学公証人修士課程学生協会の主張、そして同大学環境法・気候正義センターの立場表明がその一部です。そこに、2025年8月28日の労働デモで掲げられた要求や、Change.orgで4万件超の支持を得たReformasi Indonesiaの「透明性と正義に向けた12の要求」も加わり、多層的な枠組みが構成されています。
この要求は、Jerome Polin氏、Andovi da Lopez氏はじめ、数人のインフルエンサオンラインで議論し、まとめ上げたものです。それがソーシャルメディアで一挙に広がったのです。
SNSで広まった画像の配色にも意味があります。ピンクは、権利を訴える女性を象徴する色です。由来は、ピンクのスカーフをまとってデモに参加した一人の母親です。そこから「Pink Brave」という呼び名が生まれました。一方、グリーンはオンラインバイクタクシー(オジョル)の運転手に犠牲者が出たことに由来します。オンライン配車は緑のジャケットがその象徴であることから「Green Hero」と呼ばれています。
「要求」は、9月4日、プラボウォ大統領、下院(DPR)、各政党の議長、警察、インドネシア国軍(TNI)、そして経済関連省庁に対し、インドネシア議会(DPR)前で、2025年9月5日を期限として提出されました。
詳細については、以下の動画が参考になります。この動画では、インフルエンサーの Jerome Polin と Andovi da Lopez が、インドネシア議会(DPR)前で、議員 Rieke Diah Pitaloka 氏や Andre Rosiade 氏と面会し、「要求」の原本を直接手渡す様子が報じられました。これは、提出経路に関して言い逃れの余地を与えないための行動でした。

帽子や衣服にあしらわれたピンクとグリーンが、ひときわ強い印象を残している。
以下に、「17+8の国民的要求」の具体的内容を列挙すします。
●17 の短期的要求(実施期限2025年9月5日)
即時対応を求める17の緊急要望で期限が翌日となっている。
プラボウォ大統領の任務
- TNI (軍隊)を民間治安から撤退させ、デモ参加者が犯罪者として扱われないようにする。
- 2025年8月28日から30日までのデモ中に当局からの暴力事件に対して、すべて明確かつ透明な任務を帯びた独立調査チームを結成する。
衆議院の任務
- DPR議員の給与・手当の増額を凍結し、新たな特権(年金を含む)を廃止する。
- 予算の透明性を定期的に公表する(給与、手当、住宅、DPR施設)。
- DPR倫理委員会に対し、人民の声を軽視した議員の調査(汚職撲滅委員会を含む)を奨励する。
政党総裁の任務
- 政党内の非倫理的な議員への罰則や除名を行う。
- 危機的状況において国民の側に立つという党の決意を表明する。
- 議員と学生や市民社会との公開対話を促進する。
インドネシア共和国警察の任務
- 拘束されているデモ参加者全員を釈放する。
- 警察の暴力行為を停止し、定められた群衆統制の標準運用手順(SOP)を遵守する。
- 暴力行為や人権侵害を実行または命令したメンバーと指揮官を逮捕し、透明性のある方法で訴追する。
TNI(インドネシア国軍)の任務
- 直ちに兵舎に戻り、民間人の治安維持への関与を停止する。
- 軍が警察業務に介入しないよう、内部規律を強化する。
- 民主主義危機の間、TNIは民間に介入しないことを公に約束する。
経済関連省庁の任務
- インドネシア全土の労働者(教職員、医療従事者、バイクタクシーのパートナーを含むがこれらに限定されない)に対する適正賃金を確保する。
- 大量解雇を防止し、非正規労働者を保護するための緊急措置を講じる。
- 最低賃金とアウトソーシングに関する解決策について、労働組合との対話を開始する。
●8つの長期的要求(実施期限2026年8月31日)
さらに、期限が最長1年間、すなわち2026年8月31日までとなっている長期要求も8件ある。その内容は次のとおり。
1. DPRの浄化と大規模な改革
公表された独立監査を実施する。DPRメンバーの基準を引き上げ(元汚職者を排除する)、業績評価のためのKPI(重要業績評価指標)を設定する。終身年金、特別交通機関や護衛、国庫からの税金といった優遇措置を廃止する。
2. 政党改革と行政監視の強化
各政党は今年初めて財務報告書を発表する必要があり、下院は野党が適切に機能していることを確認しなければならない。
3. より公平な税制改革計画の策定
国から地方への国庫移転のバランスを見直し、国民に負担をかける増税計画を撤回し、より公平な税制改革案を策定する。
4. 汚職撲滅委員会(KPK)の独立性強化および資産没収法案の整備
下院(DPR)は、汚職撲滅委員会(KPK)と汚職撲滅法の独立性を強化するとともに、汚職撲滅への真剣な取り組みを示すために、今年の会期中に資産没収法案を直ちに可決する必要がある。
5. 警察の制度改革:指導力とシステムを専門的かつ人道的な組織にする
DPR は警察法を改正する必要がある。
警察機能の分散化:第一歩として12か月以内に治安、安全、交通を管理する。
6. 国軍(TNI)は例外なく兵舎に戻る
政府は今年中に、大規模農業(食糧農園)などの民間プロジェクトからのTNIの任務を取り消さなければならず、DPRはTNI法の改正に着手しなければならない。
7. 国家人権委員会と独立監視機関の強化
DPRは、表現の自由に関する権限を拡大するため、国家人権委員会(Komnas HAM)法を改正する必要がある。大統領は、オンブズマンと国家警察委員会(Kompolnas)の体制を強化する。
8. 経済・労働政策の見直し
国家戦略プロジェクト(PSN)政策と経済優先課題を真剣に見直し、先住民族の権利と環境の保護に努める。国民、特に労働者に負担をかける雇用創出法(オムニバス法)を再検討し、国営企業のガバナンス監査を再検討する。
「17+8の国民的要求」は、デモからSNSへと拡散し、インドネシア社会に横たわる不平等や政治不信を可視化した象徴的な運動です。即時対応を求める17の短期要求と、制度改革を含む8つの長期要求は、市民の声を幅広く集約したものと言えます。ピンクやグリーンといった色彩に込められた意味も運動の広がりを後押ししました。いまや「17+8」は単なるスローガンではなく、透明性や説明責任を求める国民的メッセージとして、インドネシアの未来に大きな問いを投げかけています。
インドネシアの最新動向や社会運動の背景についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひインドネシア総合研究所までお問い合わせください。


