【アルビー日記】なぜ今、インドネシア進出で「政府と組む」ことが重要なのか|Gold Indonesia 2045から考える

こんにちは。インドネシア総研代表のアルビーです。
インドネシア進出を検討する日本企業にとって、近年ますます重要性を増しているのが、「政府とどう向き合い、どう組むか」という視点です。インドネシアにおいて政府は、単なる規制主体や許認可機関ではありません。事業の正当性を与え、周囲の関係者を動かし、プロジェクトに社会的な意味づけを与える存在でもあります。
とりわけ、ジョコウィ政権からプラボウォ政権への移行は、日本企業にとって「政府との距離感」を再定義する転換点となっています。その背景にあるのが、インドネシアが独立100周年の2045年に先進国入りを目指す国家長期ビジョン、Gold Indonesia 2045です。
本稿では、ジョコウィ政権とプラボウォ政権の違いを踏まえながら、「政府と組む」という発想がなぜインドネシア進出において不可欠なのか、そしてGold Indonesia 2045という国家構想が、その判断基準としてどのような意味を持っているのかを整理していきます。
ジョコウィ政権下の政府との距離感――お墨付きが“安定しにくい”時代
ジョコウィ大統領は、ソロ市長から大統領へと一気に上り詰めた、インドネシア政治史でも特異な存在でした。その経歴はインドネシアの国民からの支持を集める一方で、既存の政治エリートや豪族層(Oligarki)からは、必ずしも十分な敬意を払われていたとは言えません。また、発言内容と実際に行うことの乖離も多く、周囲やインドネシア国民が困惑することも多々ありました。
この立ち位置は、日本企業がインドネシア政府と組もうとする際にも影響を与えました。トップからのメッセージが出ていても、それが官僚機構や国有セクター、地方政府まで一貫して共有されないケースが少なくなかったのです。結果として、「政府案件として話は進んでいるはずなのに、途中で雰囲気が変わる」「誰の了承を得たと見なされるのかが曖昧」という状況が生じやすくなりました。
日本企業にとって、これは非常にやりづらい環境です。インドネシア政府と組んでいるつもりでも、そのお墨付きが長期的に有効なのか、周囲から本当に正当なプロジェクトとして認識されているのかが見えにくかったからです。ジョコウィ政権下では、「政府と組む」という行為自体が、必ずしも強い後ろ盾にはなりにくい局面がありました。
プラボウォ政権下の政府という存在――お墨付きが“そのまま力になる”構造
一方、プラボウォ政権は、インドネシア政府と組む意味が非常に分かりやすい政権だと言えます。プラボウォ大統領は、豪族や有力政治家、官僚層からも一目置かれる存在であり、その発言や意向が、政権内部でストレートに共有されやすい立場にあります。
この背景には、父であるSoemitro Djojohadikoesoemo氏をはじめとする家系の影響もあります。国家経済や制度設計に深く関わってきた系譜は、政府中枢との距離の近さを生み、「この人物が言うなら」という納得感を伴います。
その結果、プラボウォ政権下では、インドネシア政府と組むこと自体が強い意味を持ちます。政府の名前が前に出るだけで、周囲の関係者が動きやすくなり、民間同士の調整も進みやすくなる。日本企業にとっては、「政府案件として位置づけてもらえるかどうか」が、そのまま事業の推進力になる環境だと言えるでしょう。
インドネシアの活動家であり、元国営企業相(BUMN)事務次官でもあった Said Didu 氏はジョコウィ政権とプラボウォ政権の違いについて、以下のように説明しています。
「ジョコウィとプラボウォには明確な違いがある。ジョコウィは都市部の富裕層向けインフラ(高速道路や空港など)を優先していたのに対し、プラボウォ大統領は地方の貧しい人々のための基礎インフラを優先している。また、ジョコウィは汚職者とともに権力を築いたのに対し、プラボウォ大統領は汚職撲滅に強い意志を示している。」加えてDidu氏は、プラボウォ大統領はインドネシア軍(TNI)や国家警察(Polri)を国民支援のために使おうとしているが、ジョコウィ前大統領は軍・警察を「権力維持のために使った」とも主張しています。
このように、プラボウォ政権は「国民重視・国力強化」を明確に打ち出しているのです。
参考:https://www.inilah.com/kinerja-presiden-prabowo-dinilai-prioritaskan-untuk-rakyat-beda-dengan-jokowi
Gold Indonesia 2045とは何か――インドネシアが描く国家の完成形
Gold Indonesia 2045とは、インドネシア独立100周年にあたる2045年を見据え、インドネシアを先進国の一員へ押し上げることを目標とした国家長期ビジョンです。この構想は単なる記念年次のスローガンではなく、国家の発展段階を明確に一段引き上げるための「設計図」として位置づけられています。
プラボウォ政権が強く意識しているのは、「人口が多い国」や「成長率が高い国」から、「国として完成度の高い国」へ移行できるかどうかです。2045年は、人口ボーナス期の最終局面とも重なります。若く豊富な人口を、単なる労働力として消費するのか、それとも国家の競争力へと転換できるのか。その成否を分ける分水嶺が、Gold Indonesia 2045です。
インドネシアが進めてきた主な取り組み
このビジョンのもとで、インドネシア政府はすでにいくつかの方向性を明確にしています。
第一に、産業構造の高度化です。これまで資源輸出に依存してきた経済から脱却し、製造業の高度化、下流工程(ダウンストリーム)への投資、付加価値の国内化を進めてきました。ニッケルをはじめとする資源政策は、その象徴的な例です。
第二に、人材育成の国家課題化です。教育、職業訓練、技能認証の整備は、単なる社会政策ではなく、国家競争力そのものと位置づけられています。インフラ整備と並行して、人材の質を引き上げなければ先進国にはなれないという認識が、政府内で広く共有されています。
第三に、国家の統治能力と自立性の強化です。物流、食料、エネルギー、安全保障といった分野において、「外部に依存しすぎない国家」を目指す姿勢が鮮明になっています。これは保護主義というよりも、危機に耐えうる国家基盤を整えるという発想に近いものです。
プラボウォ政権がGold Indonesia 2045で目指すもの
こうした流れを引き継ぎつつ、プラボウォ政権が目指しているのは、Gold Indonesia 2045を「理念」から「実行フェーズ」へ引き上げることだと言えます。
プラボウォ大統領の特徴は、国家像を抽象的に語るのではなく、「国力をどう高めるか」という言葉で一貫して説明する点にあります。ここで言う国力とは、経済規模だけでなく、食料を自給できる力、産業を守る力、人材を育てられる力、そして国家として意思決定を貫ける力を含みます。
そのためプラボウォ政権下では、Gold Indonesia 2045は「遠い理想」ではなく、「今から積み上げるべき国家能力の一覧表」として扱われています。どの分野を強化すれば2045年に間に合うのか、どの外部パートナーと組めば自立につながるのか、という実務的な視点が前面に出てきています。
また、プラボウォ政権は「誰と組むか」を非常に重視しています。外資企業や外国政府との協力においても、単なる投資額より、「その協力がインドネシアに何を残すのか」が問われます。人材が育つのか、制度が残るのか、最終的に自国で回せるのか。これはGold Indonesia 2045を実現するための、極めて現実的な基準です。
Gold Indonesia 2045について:インドネシア投資・下流省/BKPM WEBサイトより
重要なのは、Gold Indonesia 2045が、インドネシア政府にとって外部パートナーを選ぶための基準になりつつあるという点です。
- この事業は先進国入りにどう貢献するのか。
- この企業は人材をどう育てるのか。
- この協力関係は国力を高めるのか。
プラボウォ政権下では、これらの問いに答えられないプロジェクトは、優先順位が下がりやすくなります。逆に言えば、この文脈にしっかり接続できる企業は、「政府と組む相手」として強いお墨付きを得やすい環境に入ったとも言えるでしょう。
日本企業のインドネシア進出戦略はどう変わるのか
ジョコウィ政権下で日本企業に求められたのは、政府との関係を過度に前面に出さず、柔軟に立ち回る姿勢でした。しかし、プラボウォ政権下では事情が異なります。政府と正面から組み、その意図や国家像に沿った事業であることを明確に示すことが、むしろ重要になってきます。
インドネシア進出において、単に「許認可を取る」「制度を守る」だけでなく、「政府がこの事業にどんな意味を見出すのか」を理解し、それを言語化できるかどうか。これが今後の日本企業に問われるポイントです。
政府を単なる規制主体ではなく、共に物語を作るパートナーとして捉えられるか。プラボウォ政権は、日本企業にその姿勢をはっきりと求めているように見えます。
インドネシア進出において、政府との関係性は「避けるもの」でも「形式的に対応するもの」でもありません。Gold Indonesia 2045という国家ビジョンの下で、政府は明確に「誰と、どの未来をつくるのか」を見極めようとしています。
インドネシア総合研究所では、インドネシアの政権動向や国家ビジョンを踏まえた進出戦略の整理、政府との関係構築の考え方、現地で評価されやすい事業ストーリーの設計などについて、実務ベースでのご相談を承っています。インドネシア進出をご検討中の企業様、あるいは既に進出済みで次の展開を模索されている企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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