【アルビー日記】若者が動かすデジタル民主主義:インドネシアのデモに見るデジタル世代の力

こんにちは、インドネシア総研代表のアルビーです。
8月末にインドネシア各地で起きた大規模なデモが世間をにぎわせています。
今回インドネシアで起きたデモの背後には、市民の多様な不満が存在していました。年齢要件を満たさないまま特例で承認されたギブラン副大統領の就任問題をはじめ、首都移転計画、さらにはプラボウォ政権下での軍の影響力拡大などです。こうした一連の“政治的操作”に対する疑念が、市民の不満を高めているのです。
そして直接の引き金となったのは、8月25日に行われた国会議員の特権的地位に対する抗議デモとなります。この動きは8月28日の労働デモ、やがて政府の透明性確保やエリート支配への反発とも結びつき、全国へと波及した。そして各地で騒乱が生じ、抗議は次第にエスカレートしていきました。
マカッサルでは地方議会の建物が8月29日金曜日に放火され、ジャカルタやスラバヤを含む各地でもデモが暴徒化し、警察署やバス停・高速道路の料金所など、公共インフラも焼き打ちや破壊にあいました。
陰謀論もささやかれており、1998年の改革期の動乱でも、背後で群衆を煽動する存在がいたとの指摘がありました。そして今回、2025年8月のデモでも、同様の構図が浮かび上がっています。一連の暴徒化の現場の状況を振り返ると、破壊行為を実際に行ったのは本来の市民デモ参加者ではなく、外部から動員された別の勢力である可能性が高いと報じられました。たとえばジャカルタ市内で焼き討ちに遭ったバス停では、CCTV映像により『群衆とは別の人物が火をつけた』様子が確認されています。こうした事実から、破壊行為の一部は、外部勢力や不明の加害者によって引き起こされた可能性があるとの見方が広がっているのです。誰かが糸を引いているのではないか。Geng Solo(ジョコウィグループ)の関与を疑う声もありますが、真相はいまだ不明です。
この事実が明らかになったのは30日土曜日のことです。SNSや現地メディアを通じて、『遠方から来た者たちが住民とは無関係に公共施設を焼き討ちしている』との証言が拡散されました。誰かが意図的に国内を混乱させ、社会を分断させようとしているのではないか、SNSの画面越しに次々と懸念のメッセージが広がりました。

翌日曜日には空気が変わり始めました。『不満は政府に向けて表すべきであり、暴力や破壊に加担してはならない。今回の抗議は非暴力で行う。もし破壊行為があれば、それはデモ参加者ではない」という趣旨のメッセージが、学生を中心とした若者を中心に広がり、街の空気を塗り替えていきました。そして市民の間にも徐々にその意識が共有されていったのです。
31日(日曜日)、抗議の混乱で一時的に都市機能が麻痺したジャカルタも、徐々に日常を取り戻し始めました。朝には清掃活動が実施され、Car Free Day(自転車や徒歩中心の通行日)も予定通り開催されました。ジャカルタ州政府は、デモで被害を受けたMRT(都市高速鉄道)の駅施設や運行システムの修復に着手し、市民の移動手段の安定化を図っています。焼き討ちに遭った高速道路の料金所ゲートでも修理が始まるなど、街の秩序は回復の兆しを見せました。今回のデモは、当初の抗議を超えたが、市民が冷静さを取り戻し、翌日には大規模な抗議を見送った点で、過去の暴動・騒乱とは異なる展開を見せたのです。
週末の混乱を経て、市民の意識には大きな変化が見られました。「暴力ではなく対話を」という姿勢は、政治への関心の高まりを示すものです。インドネシアの人々は「暴力や破壊に加担せず、自分たちの暮らしを自分たちで守る」という意思を強め、外部から持ち込まれた挑発や破壊行為に巻き込まれないよう努めたのです。
こうした冷静な対応の広がりもあり、金融市場は比較的落ち着きを保った。円対ルピア、ドル対ルピアはこの間、いずれも大きく下落することはなく、為替レートは急激な不安定化を見せませんでした。
今後、抗議活動は街頭での大規模な混乱ではなく、議会との直接的な対話へと軸足を移していく可能性が高まっています。その象徴が「17+8の要求(17+8 Tuntutan Rakyat)」です。これは、公的機関や政府に対して即時の対応を迫ると同時に、将来に向けた構造改革を求める要求です。
今回、各地のデモ隊が何を要求しているかは違っており、生活費の高騰や、増税、効率化問題などさまざまでした。98年は打倒スハルト政権というのがありましたが、今回、そこまで急進的な動きはありませんでした。改善を求める声はあったが、その手法は多様で、つまりベクトルの向きは同一ですが、スケールはばらばら。改善の狙いも団体で異なっていたのです。問題は一つではなく、長年にわたる不平等、統治、説明責任に対する懸念が背景にありました。それらを包括した枠組みが「17+8の要求」です。
これは、Jerom Polin、Cheryl Marella、Salsa Erwina、Andovi da Lopez、Abigail Limuria、Fathia Izzati、Andhyta F. Utamiなど、インドネシアで著名な数人のインフルエンサーが立ち上がり、オンラインディスカッションで作成したものです。
彼らは様々な団体からの要求と一般市民の声をまとめ「17+8要求」を作り上げました。これらの要求は、211の市民社会団体の要望を集めたインドネシア法律扶助財団(YLBHI)、インドネシア法政策研究センター(PSHK)のプレスリリースなど、様々な団体から提出されました。(※「17+8の要求」の詳細については別途記事を掲載予定です)
いずれにせよ、今回の出来事は98年の騒乱などとは異なっています。今回の出来事をきっかけに国家と市民との関係は変わり始めるかもしれません。すべての政策には説明責任があり、同時に市民の側も怒りだけでは何も動かせないことを学びつつあります。必要なのは「言語化」であり、その重要性を社会全体が認識し始めています。そして、この大きな流れを後押ししているのは、若者とSNSの存在です。新たな民主主義の扉が、いまインドネシアで開きかけているのかもしれません。
インドネシアの最新動向や社会運動の背景についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひインドネシア総合研究所までお問い合わせください。


