インドネシアは安全か?-インドネシアの銃規制と最新治安事情とASEAN他国との比較

先日、フィリピンにて日本人2人が射殺されるという痛ましい事件が起きました。
インドネシアに近い国で日本人が殺害されたことから、本コラムをお読みの方の中には「東南アジアは危険なのか?インドネシアの治安はどうなのか?」と不安になられる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回のコラムでは、インドネシアにおける銃規制の現状や治安についてご紹介いたします。
インドネシアにおける銃規制の現状とASEAN諸国との比較
インドネシアにおける銃規制は東南アジアでも最上位に厳しい部類となっており、民間人の銃の所持は原則不可となっています。例外的に自己防衛・競技/狩猟(スポーツ)・警備用途に限り、警察(Polri)の個別許可・厳格な審査・保管義務が課されています。例として、一部富裕層などは自己防衛のために銃を所持するケースなどがあるようです。
銃の運搬の際も目的地や時間、弾薬の分離など厳格な条件が課されています。また、保管については金庫等の設備が義務付けられ、紛失時には直ちに通報する必要があります。
一方、ASEANの他国はどのような状況なのでしょうか?
フィリピンは銃所持・携帯は広く許可されており(PTCFOR/Permit to Carry Firearms Outside of Residenceで条件付き)、条件付きで市中携帯も可能です。タイも銃所持は許可制ですが、自国民限定となっています。マレーシア/シンガポール/ベトナム/カンボジア/ブルネイ/ラオスは概して厳格で、特にシンガポールは銃犯罪に死刑規定が存在します。ミャンマーは2023年に「忠誠」を条件に民間武装を広げる方針を出し、同じ東南アジアであっても国によって事情が大きくことなることがわかります。
インドネシアにおける銃規制の根拠法令について、主なものは以下の通りとなります。
・Perpol No. 1/2022(警察規則):スポーツ用途の非有機(非制式)銃の許可・監督・管理を規定。発給類型(輸入・国内購入・保管・使用場所など)や射撃場の要件も定めます。旧規則(2012/2015/2017)を包括的に改廃。
https://peraturan.bpk.go.id/Details/225203/perpol-no-1-tahun-2022
・Perkap No. 18/2015(※現在は上記で置換):自己防衛用途の非有機銃の個別許可・監督、弾道登録、紛失時の取り消し等を細則化。実務上の運用理解に依然参照されます。
https://www.scribd.com/document/364126351/Perkap-Nomor-18-Thn-2015-Ttg-Senpi-Nonorganik-Utk-Bela-Diri
ASEAN主要国との比較の整理
以下は、ASEAN主要国の銃規制の比較を整理したものです。
| 国 | 民間所持 | 携帯(市中) | 主な根拠法 | 備考 |
| インドネシア | 原則不可、個別許可で例外(自己防衛/スポーツ/職務) | 常時携帯は不可、運搬は厳格 | Perpol 1/2022(スポーツ)、Perkap 18/2015(自己防衛・旧) | 極めて厳格。警察裁量が大きい。 |
| フィリピン | 広く許可制(登録・資格要件) | PTCFORで条件付き許可(脅威要件/時限的など) | RA 10591(包括法)、PTCFOR運用通達 | 行政判断で一時銃携帯禁止も(例:SONA等)。 |
| タイ | 許可制(タイ国籍者のみが原則) | 原則不可(特別許可・職務例外) | 1947年銃砲法 (2017年改正) | 外国人原則不可を2017年改正で明確化。 |
| マレーシア | 非常に厳格(許可制) | 極めて限定 | Arms Act 1960 (Increased Penalties) Act 1971 | 非合法所持は長期刑/鞭打ち、事案次第で極めて重罰。 |
| シンガポール | 原則禁止(許可制だが非常に稀) | 事実上不可 | Arms Offences Act 1973 | 銃の発砲犯罪は死刑の対象。 |
| ベトナム | 民間所持ほぼ不可(国家管理下のスポーツ等のみ) | 不可 | Law No.14/2017/QH14(武器・爆発物・装備管理法) | 個人所持を幅広に禁止、国家機関管理。 |
| カンボジア | 厳格(許可制、外国人は原則不可) | 不可 | 2005年武器・弾薬管理法 | 外国人の所持を明確禁止。 |
| ラオス | 厳格(登録・許可) | 不可 | 関連通達(スポーツ用輸入の技術条件など) | 実態は不法銃流通が課題。 |
| ブルネイ | 厳格(許可制) | 不可 | Arms and Explosives Act | 小国だが取締りは厳しい。 |
| ミャンマー | 政権支持者等に拡大(2023方針) | 許可と引き換えに動員義務的運用 | 2023年「武器法/右腕化」政策 | 地域で特異:忠誠者へ民間武装拡大。 |
参考:https://peraturan.bpk.go.id/Details/225203/perpol-no-1-tahun-2022
https://pco.gov.ph/news_releases/gun-ban-to-take-effect-july-20-in-ncr-for-pbbms-sona
https://www.loc.gov/item/global-legal-monitor/2017-10-23/thailand-amendments-to-firearms-law
https://www.icj.org/wp-content/uploads/2013/02/Malaysia-Firearms-Increased-Penalties-Act-1971-eng.pdf
https://sso.agc.gov.sg/Act/AOA1973
https://english.luatvietnam.vn/law-no-50-2019-qh14-on-amending-and-supplementing-a-number-of-articles-of-law-no-14-2017-qh14-on-ma-179055-doc1.html
https://www.vertic.org/wp-content/uploads/2022/04/KH_%E2%80%A2-Law-on-the-Management-of-Weapons-Explosives-and-Ammunition-2005.pdf
https://www.laotradeportal.gov.la/en-gb/search-measure/view/24
https://megaarms.com.my/legal/
https://www.agc.gov.bn/AGC%20Images/LAWS/ACT_PDF/A/CHAPTER%20058.pdf
https://apnews.com/article/politics-myanmar-government-thailand-law-enforcement-4b2a65cf6b28d27dc84d47c254439d57
国際的な平和度比較
国際シンクタンクIEPによる「グローバル平和指数(GPI)2025」では以下の順位となっています。
- シンガポール:6位(非常に安全)
- 日本:12位
- マレーシア:13位
- ベトナム:40位
- インドネシア:50位(世界平均よりやや良い)
- タイ:86位
- カンボジア:87位
- ミャンマー:153位(最下層)
インドネシアは、日本やシンガポールほどの「超安全圏」ではないものの、同規模の新興国と比較すれば良好な治安環境にあります。
参考:Global Peace Index 2025(Vision of Humanity): https://www.visionofhumanity.org
上述の通り、インドネシアの銃規制はASEAN諸国の中では特に厳格な部類となります。民間の銃所持は原則禁止で、例外的に自己防衛やスポーツ、警備などの目的でのみ、警察(Polri)の厳しい許可を得て認められます。その結果、民間の銃保有率は「住民100人あたり1丁未満」で、日本と同様に世界最低水準にあり、銃犯罪のリスクは非常に低いと言えます。
参考:Small Arms Survey:https://www.smallarmssurvey.org
ジャカルタの治安と地域による治安の差
インドネシアの首都ジャカルタは「比較的安全だが注意が必要」とされます。
Numbeoの統計では、犯罪レベルは「Moderate(中程度)」で近年やや上昇傾向とされています。発生しやすい犯罪として、スリ、置き引き、詐欺などが挙げられ、特に公共交通機関や観光地で多発しています。
参考:Numbeo「Crime in Jakarta」: https://www.numbeo.com/crime/in/Jakarta
特殊事例として、最近では「タイヤトラップ(道路に釘やボルトを撒いてタイヤをパンクさせ、停車した車やバイクを狙う)」などが報告されています。
そのほか、社会的リスクとしては、特にジャカルタにおいてはデモや抗議活動が頻繁に発生しており、政治的緊張時には衝突に発展する可能性があります。25年8月末には、国会議員に対する高額な住宅手当に反対する大規模なデモが首都ジャカルタを中心に発生し、警察とデモ隊が衝突する事態となりました。非常に大規模なデモとなったため、デモ発生時は弊社ジャカルタオフィスのスタッフには出社せずに自宅待機を命じました。このデモにより数名が亡くなる騒動となっています。
自然災害としては、2025年3月には大規模洪水が発生しており、都市部における災害リスクも無視できません。
一方、インドネシアの地方については特にパプア地方は注意が必要とされています。パプア地方(中部・山岳パプア州)では分離独立運動に関連する武装勢力が活動しており、日本外務省は「レベル2:不要不急の渡航中止」を勧告しています。米国務省も同様の警告を出しています。インドネシアの主要観光地とされる場所(ジャワ島・バリ島・ジョグジャカルタ・ロンボク島など)については、上記の例外地域に該当せず、一般的な防犯意識で十分対応可能です。
観光客や駐在員が遭遇しやすい犯罪・トラブル
インドネシアにおいて遭遇しやすい犯罪・トラブルは、スリ、置き引き、クレジットカード詐欺、飲料への異物混入(特にバリ)、バイク事故などです。
インドネシアの凶悪犯罪の発生率はアジア平均と比べて低め〜中程度となっていることから、インドネシアを訪れる観光客や駐在員にとって重要なのは銃犯罪への警戒よりも「軽犯罪や交通事故への対策」となります。
具体的なアドバイスとして以下のようなものが挙げられます。
- 貴重品管理…バッグは前持ち、スマホや貴重品などは見せびらかさない。
弊社ジャカルタオフィスのスタッフも、つい最近オフィスへ通勤途中にジャカルタ市内でスリ被害に遭いました。リュックのポケットにスマートフォンを入れて出勤していたところ、オフィスに到着したときにはリュックのポケットが全開でスマートフォンがなくなっていたそうです。 - 交通手段…タクシーはBluebird等大手や配車アプリを利用。二輪移動は事故リスクが高いので注意。
- 夜間行動…混雑地ではスリ対策を徹底し、飲食店ではできるだけ飲み物を置きっぱなしにしない。
- デモ回避…抗議活動の現場には近づかない。
- 自然災害への備え…BMKG(気象庁)のアプリで地震・津波情報を受信。
まとめ
インドネシアは厳しい銃規制により銃犯罪リスクが極めて低い国です。一方で、旅行者や駐在者にとっての現実的リスクは スリ・置き引きなどの軽犯罪、交通事故、自然災害などにあります。ジャカルタは「中程度の治安リスク」を持つ都市ですが、適切な防犯対策と最新情報の確認を怠らなければ、安心して滞在できる環境が整っています。
※今回フィリピンで起きた邦人殺人事件については、本記事執筆時点ではまだ詳細が解明されておらず、日本人が殺害に関与していた可能性についても報道されており、一概に“フィリピンの治安が悪い”とするものではありません。
弊社、インドネシアの最新の治安情報の提供、駐在員・出張者の安全対策アドバイス、法制度や投資環境に関する調査・コンサルティングなども行っております。
インドネシアにおける安心・安全な活動のために、現地事情に精通した専門家が皆様をサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

